かつての私は、電車に乗っている時以外は、いつも走っていました。
朝、余裕をもって起きられなかったからです。
毎日が、遅刻ギリギリの綱渡りでした。
毎朝、頭の中はネガティブな計算でいっぱいだった
当時の朝は、時計を見て電車の時間を調べることから始まりました。
通常のルートでは間に合わないとわかれば、少し運賃の高い別ルートの電車に、自費で乗ることもしばしばありました。
それでも間に合わなそうなときは、頭の中がこんな計算で埋まります。
どのルートなら最短か。会社にはなんと言い訳しようか。遅延証明書をもらい忘れないようにしよう。
一日の始まりが、毎朝これです。ネガティブな思考からスタートしない日がありませんでした。
さらに厄介だったのが、体調です。
電車の中で頻繁にお腹が痛くなり、途中下車することもありました。ところが通勤時間帯の駅のトイレは、たいてい行列です。
遅刻の焦りと腹痛のダブルパンチ。今考えても、よく無事だったと思います。
仕事内容は嫌ではなかった。でも、仕事をするのはつらかった
誤解のないように書いておくと、仕事の内容自体は、そこまで嫌ではありませんでした。
それでも、仕事をすることは本当につらかったのです。
朝があの状態なので、職場に着く頃にはすでに消耗しきっています。昼食のあとは、気絶するように眠くなっていました。
夜は眠れず、朝方に寝落ちして、また慌ただしい朝が始まる。
つまり、朝の消耗が一日全体を規定し、その一日がまた翌朝に返ってくるという構造です。
つらさの原因は、仕事そのものではありませんでした。仕事にたどり着くまでの過程と、そこから抜け出せない循環だったのです。
だから私は、転職ではなく引越しを選んだ
こういう状態のとき、多くの人が最初に思い浮かべるのは転職かもしれません。
でも私は、そうしませんでした。
理由は単純です。つらいのは通勤と朝であって、仕事内容ではなかったからです。
職場を変えたところで、住む場所が変わらなければ、あの朝は繰り返されます。
一人暮らしの会社員の生活は、基本的に職場か自宅かの二択です。生活を大きく変えるとしたら、転職か引越し、あるいはその両方しかありません。
当時は今ほど転職が一般的ではなかったという事情もありました。でも、それ以上に大きかったのは、解くべき問題がどこにあるのかがはっきりしていたことです。
「仕事がつらい」と一括りにしてしまうと、手段の方が先に来てしまいます。
本当につらいのは何なのか。それを切り分けることが、遠回りに見えて近道でした。
変わったのは、通勤時間だけではなかった
引越し先は、他県のベッドタウンから、都心付近の若者や学生が多い、活気のある街に変えました。
通勤時間は35分ほど短縮され、乗り換えも2回から1回に減りました。
ただ、変わったのは数字だけではありません。
街の雰囲気が、まったく違ったのです。
徒歩圏内に繁華街があり、古着屋や演劇、ライブハウス、個性的なカフェが並んでいる。スーツを着たサラリーマンなど見当たらないような場所でした。
なんとなく街をふらふら歩いて、良さそうな店があれば入ってみる。カフェやバーでは店員さんが気さくに話しかけてくれて、いつのまにかお気に入りの店ができていました。
そこから知り合いが増え、プライベートは新鮮で充実したものに変わっていきました。
その地域で暮らしているだけで、気分が圧倒的に上向いたのです。
同じ睡眠不足でも、意味がまったく違った
正直に書くと、引越し後も睡眠不足ではありました。
夜遅くまで飲みに行くことが多かったからです。
でも、以前とはまったく違いました。
かつての睡眠不足は、メンタル不調と体調不良の悪循環から来る、ネガティブなものでした。
引越し後の睡眠不足は、仲間と夜遅くまで楽しんだ結果の、ポジティブなものです。
同じ「睡眠時間が短い」という状態でも、気分も体調への影響もまるで違いました。
圧倒的に元気になったのです。
だから、平日の夜も休日も、予定がしっかり入るようになりました。
食生活も変わりました。基本は自炊でしたが、近所に美味しい店が多く、新しく仲良くなった人たちと気になった店を巡るのも楽しみのひとつになりました。
健康面でも、近所のジムに週2回通って筋トレをするようになりました。冬でもアウターの下は半袖で過ごせるくらいには、体も変わっていました。
想定していなかった変化もあった
引越しには、事前に予想していなかった副産物もありました。
自宅のすぐ近くに保育園があったのです。
平日の朝、子どもたちが楽しそうに遊ぶ声が聞こえてきます。
その明るい声が、私の気分まで明るくしてくれました。その声で目が覚めることもあり、良い目覚めだった記憶があります。
時計を見て電車の時間を計算することから始まっていた朝が、子どもたちの声で始まる朝に変わったのです。
最近では、こうした音を騒音と感じる人もいるようです。
でも当時の私にとっては、ポジティブなBGMでした。
同じ音でも、受け取る側の状態や環境によって、意味はまるで変わります。
そして、この変化を狙って引越したわけではありません。たまたま良い方に転がっただけです。
環境を変えると、自分では想定していなかった良い変化まで付いてくることがある。そう実感した出来事でした。
まとめ
かつての私は、毎朝走っていました。
つらかったのは仕事の内容ではなく、そこにたどり着くまでの通勤と、そこから抜け出せない循環でした。
だから私が変えたのは、職場ではなく住む場所です。
結果として変わったのは、通勤時間だけではありませんでした。街の雰囲気、人との出会い、休日の過ごし方、食生活、体調。生活のほぼすべてが変わりました。
同じ睡眠不足でも、意味がまるで違うものになりました。
そして、朝を明るくしてくれたのは、予想もしていなかった保育園の子どもたちの声でした。
意志の力で毎朝ポジティブになろうとしても、たぶん無理だったと思います。
変えるべきだったのは、気持ちではなく環境の方でした。
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